幸せを探している

俺には今幸せが必要だ


○平凡なハッピーでは物足りない、そんな篠原涼子こと俺は、某所にてこんな幸せが世に出ている事を知り、是が非でも手に入れんがため行動を開始した。


○第一発見者からの情報によればコンビニに置いてあったという。
「よろしい、ならばコンビニだ」
そう考え都内のコンビニを片っ端から廻る。貴方とコンビになどと協調性を高らかに謳うあの店や、都市において我こそが一番加熱された場所だと宣言するあの店、午前と午後を繰り返す輪廻の象徴たるあの店、四六時中愉悦に浸っていることを隠しもしない最古参のあの店。あとサンクス。とりあえず目につくコンビニ全てに襲い掛かり、吐息も荒く生菓子コーナーを眺め回し、しょんぼりして店を出る。こんな作業を数え切れないほど繰り返した。


○そんなとき、棚を眺めふと気がついた。
「棚が広い店舗ならば、置いてある可能性も必然的にあがるというもの」
そこで俺はコンビニに加え、スーパーも標的とした。西武グループ系列のあの店、かつては球団も持っていたあの店、あと駅前のAいけ。自動ドアを手動でこじ開け、買い物用カートに跨り加速。生菓子売り場前で目を皿のようにし、店員につまみ出される前に自主的に退却。こんな作業を嫌というほど繰り返した。


○そんな中、敵の大きさが俺に発想の逆転を与えた。
「あれだけ大きいなら肉のハナマサにあるんじゃね?」
それはまさに晴天の霹靂。身体が夏になり、YO! SAY! 夏が胸を刺激する。ナマ足魅惑のマーメイド。もはや篠原涼子ではなくただのガノタにクラスチェンジしてしまった俺は、己の脳の灰色っぷりに失禁しつつ地元近くのハナマサを目指した。
「今の俺ならヤン・ウェンリーすら小指で倒せるぜ。フヒヒwwwサーセンwwwwwwwww」
こんなことをつぶやいていた気もするが定かでない。ともかく、ハナマサを見つけた俺は、ティンダロスの猟犬よろしく、入り口に飛び掛った。


ハナマサはすばらしい店だった。店内は大して広くないというのに、扱っている商品はどれもこれも業務用ばかり。バットのような肉棒や、たっぷり詰まった腸詰、他にも愛らしいふくらみをどっさり詰め込んだ冷凍たこ焼きや、肌触りから楽しみたいパンケーキの山。個人的には、先日ココスで食べたパスタの萎えっぷりにひどくご立腹だったので、「アルデンテに茹で上げた冷凍パスタ」に心惹かれるところではあった。これならかのりこ嬢もピザを片手にご満悦るというものだ。


○だが、ここにも俺の探す幸せはなかった。
「そうか、これが東京砂漠か」
今さらのようにそんな現実を突きつけられた俺こと社会の底辺×高さ÷2は、日付が変わろうとする街をとぼとぼと歩き帰宅した。あと翌朝起きられなかった(でも遅刻は免れた)